出ようとしたときに、足の太もものところを柱が、
上から落ちてきた柱が押さえてまして、その上へ、
ずーっと重なってたもんですから、下が出ないわけですね、足が。
それで『助けてくれーっ』て怒鳴ってましたら、はるか向こうのほうから
妹が『お兄ちゃん、お兄ちゃん』言うて捜してるわけです。
そうしてるうちにだんだん妹が上から
『お兄ちゃん、もう回りが火が出だした』て言うたと(言ったんです)

私が下敷きになってもがいてる時にね、ちょうど目の前にいっぱい、
本箱にあった本が散らばってたわけです。
当時私、武者小路むしゃのこうじ実篤さねあつの『人生論』というのが岩波新書にありますよ。
あれを中学の4年生の頃かなんかに読んで、ちょっと感激しましてね。
ちょっと影響受けた書物だったんです、当時の。

ところが岩波新書の武者小路むしゃのこうじさんの『人生論』なんていうのがね、
目の前にあるわけです。
目の前にあってね、しかし私が生きるために
何にも役に立たんわけでしょ。
本だ、書物読むだ、なんだ言ってて、
そのことは私自身が非常に大切だと思ってたんやけども、
私が生きる時にね、いったい何の役に立つんやろうか。
ニヒルなんていうたらちょっとええカッコするようですけどもね、
なんかそんなものがねー。



この証言の関連ホームページ
武者小路実篤 人生論 左記のトップページはこちら→ 新潮社
HOME