9月の5日の晩でした。その時ね、
これはもう最期さいごだなという覚悟をしたんです。
というのはもう、意識は朦朧もうろうとなるのを自分でかるんですねえ。
深い…、ずーっと底知れん所へ落ちて行くという実感ですね、
これは明日の朝まで持てるか持てんか
わからんていう覚悟をしたんです。
それで、夜の夜中ですが、一言、工場の人に
お礼を伝えて欲しいという気持ちがあったもんですからね。
『誰か呼べ』というようなことで。

来ましてね、『先生、どうされたんですか』と言うから、
『残念ながらもう最期さいごじゃ。意識が朦朧もうろうとなるのが
今日はかる、はっきりかる』で、
『明日の朝になって、口がけるかどうかからんから、
けるうちに一言お伝えを願いたい。ほかではないが、
長い間ただ皆さんにお世話になりました、ということの一言』それだけ。



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