そうこうしているうち9月の4日の朝が来て、
それで私はかがみに向かっていつものように、
こう頭をかすんですけれど、
こころみに、本当にふっとこころみに髪の毛をこうつかんでみたらば、
つかんだだけ、こう取れたんです。それで私は、はっとする。
もう一度こっちでつかんでみたら、また取れたんですね。

それで、その時にやっぱし来るべきものが来てしまった。
あごひげの真っ白いお医者様が、『最善は尽くすけれども
最悪のことを覚悟なさい』、と。いう風に言われたわけで、
さて、一週間か十日の命としたら、私はなにをしなきゃならないかしら。

そいで、娘を呼んでもらいました。ただ一言『しっかり生きて行きなさいよ』
ということだけしか、彼女には言いませんで、言うことがなかったわけで。
そして彼女と別れて。だけど気持ちがとっても動揺してましてね。
古代こだい名僧めいそう高僧こうそうという人たちが従容しょうようとして死についた。
ああいう人たちはなんて素晴らしいんだろう、
わたしはこのまんまってしまうのかな、わたしなんにも、
なんにもわたし残らないじゃないか、っていう思いでね…。



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