『お母さん、鏡〈かがみ〉見せて頂戴〈ちょうだい〉よ』言うけん。
鏡〈かがみ〉はね、どこ行ったかわからんのですよ。
見せたら自分で恐〈おそ〉れるからね、見せんように。
鏡〈かがみ〉が無いんですよ、原爆でどこへ飛んだのか分〈わ〉からんのですよ。
『ほうねー』言うてからね。そのなり…。

その月のあれじゃから29日の朝ね、
『お母さんね、今日だけじゃからね、今日限りじゃからね』
『私は先に参らしてもらいますから』
『お父さんも、お母さんも、後から参って頂戴〈ちょうだい〉よ』言うて。
言葉はものすごうはっきりしとるんです。ええ。
そいでね、今日限りじゃ、今日限りじゃ言うてから。

さあ、あの自分にわかるんか知りませんがね。
で、そういう風に言うた思いましたらね、
『お母さん、嬉しいねー』言うてね、
『仏様〈ほとけさま〉が迎いに来てくれちゃったよ』
『嬉しいねぇ、さようなら』言うてから死んでいきました。