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証言307 | 8月中旬〜下旬 | 瞼を裏返しにしましてホースを絞って | 当時16歳 |
傷口が、ま、あの、塞がらないお方がですね、
その『痛い、痛い』ということを、その、盛んに訴えられる、ね。
おかしいな、おかしいなということでその、よくみんなと
見ましたところですね、何か動いてるもんがあるわけですね。
それが、あの、やっと蛆〈だということが解りましてですね。
最初の内はあのお箸〈でピンセットを作って
1ぴき1ぴき出していたわけなんですけども、とてもそのお箸〈で、
その、取ってる間が無くなって、手に負〈えなくなったわけですね。
そこでその患者をその抱きましてですね、
水道の蛇口〈の所まで連れて行って、
そして、あの、傷口にですね、ホースの水をピューッと飛ばすわけですよ。
そしてその蛆〈虫をですね、吹っ飛ばす。蛆〈虫はですね、
たんに傷口だけやなしにですね、瞼〈の裏に入ってしまうわけですね。
こういう時は、あの、瞼〈を裏返しにしましてホースを絞って
蛆〈虫を飛ばすということも、あの、何回となくありましたですね。
金沢のですね、第四高等学校の数学の教授をしておられた
宮越何とか先生という方がですね、あの当時一等兵、星2つでですね、
お入りになっておられたんですよ。
私どもは(先生より若いのに)星3つ(上等兵。先生より兵隊の階級が上)でですね、
その幹部候補生〈でおりまして。
私どもの、その、雑用をその宮越先生がやって下さっていたわけですね。
ところが私どもは宮越先生に夜ですね、
数学を好きな者が集まってですね、教えて頂いたわけなんですよ。
その宮越先生が、ま、あの、被爆されて
私たちの中においでになったわけなんですけども、
同僚がですね、夜中に回っておりました時に宮越先生がその
『候補生〈殿、候補生〈殿、水を下さい』って言って、
その、手を合わされたそうです。
その看病に当たった候補生〈がですね、先生に水を差し上げたんです。
『候補生〈殿ありがとうございました』ということを言われたそうです。
そして翌朝はですね、鬼籍〈に入っておられた(亡くなった)ということ。