朝からおかしいんですよ、そこいらの様子がね。 向こうの方の山からね、背嚢背負〈った兵隊さんが 5人10人と一列になって、とことこ、とことこ降りてくるんですよ。 あっちからも降りてくる。 長崎はこうね、四方〈山ですから、四方〈っていうか山ですから。
そのうちにね、トラックに乗った憲兵さん、メガホンでね、 わんわんわんわん何かわめきながらね、通るんですよ。 そいで何て言ってるかは聞き取れませんので、ただ声だけね、 わんわんわんわん言って通るんですよ。 そうすと倅〈と『何かおかしいね。どうしたんだろう、 どうしたんだろう』って言ってたんですよ。
そしたら町から来た人が「終戦」っていうことを知らせてきたわけ。 私たちはもうラジオも持ちませんし新聞はむろんね見られないし。 町から来た人の話を聞くだけでしょう。
『終戦ってよ』って。 天皇様がラジオでね、みんなにお話があったっていうこと、 事柄〈だけわかったわけですよね。そいで主人にそう言ったんですよ。 『日本は負けたのよ』って『終戦になったのよ』って言ったら 『日本はやりそこなったなー』って言いました。 それが最後、翌日死にました。 |