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証言269 | 8月10〜11日 | 絵描きとして生まれて、こんな凄惨な場所を | 当時33歳 |
ううん、被災者が二通りありましてね、直接爆風でやられた方は、
出たところが全部オレンジ色してるんですね、焼けて。
川ん中折り重なって死んでる人が何百人てありましたけれども、
上からみますとね、まるでオレンジ色してるんですね皮膚が。
それからもう一つは、火災のために焼けた人は、黒こげなんですね。
泥のような、もうほんと泥人形みたいになってね、
足は妙に空を…(空)にあの、跳ね上げたような格好をして
手は空を掴〈むようなね、そういう格好をして。
特に子供なんかがね、あの…道の片側にある小さい溝〈の中に
頭を突っ込んで死んでるのが随分〈、
まだ、ブスブス燃えてましたけどねその子なんか。
私もスケッチしましたけども。
そん中で一番心苦〈しいのはあの、
両手を丁度〈幽霊のように前に持ってきてね、
目は虚〈ろで、ブルブルブルブル震〈えてる。
その人の前でね、描く時は嫌な気がしました。
だから、「ちょっとすいませんけど」って言って描きましたけどね。
まあ、軍服着てるもんだから誰も怒りもしないで、描かせてくれましたけども。
こんな、凄惨な場所を自分が絵描きとして生まれて
何とこう不幸だろうかと思いましたね。
そして最初はその妙な匂いと、その、
人を恨〈むような目つきのまだ死んでない人、
あるいは黒こげの人、あるいは焼け爛〈れてね、半死半生の人、
もうあらゆる人の前において描くんですから。
軍服着ておりましたからね、描けるようなもんですけども、
これはとても普通の人がああいう時に絵をスケッチするなんてこと
到底〈出来ないと思うんです。
そのころもう永井〈(隆〈)さんも病気が悪化しましてね、
全然起きれないんですよ。
で、その枕元に行ってこのスケッチ見せましたら、暫〈く熱心に見られましてね、
寝たままあの、巻紙に書いてくれた詩があるんですけど、(その)一つは、
「実相〈に見入る目は確かなれど、同胞なれば震う描線〈」と…
「実相〈に見入る目は確かなれど、同胞なれば震う描線〈」と。