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証言246 | 8月10日 午後〜夕刻 | 死ぬまでやっぱり食うとが主 | 当時34歳 |
今度は大学病院さ行ったっですよ。
待合室ですかねー、あすこには仰山人間が死んどるでしょうが、
全部黒仏〈ですもんねぇ。黒仏〈ですよ、人間が。
着物着とるもんはおらんと、一人も。
『こいを片付けろ』って医者が言うもんじゃっけん…。
そして、こうやったらなんか骨に当たるもんですけん、
なんじゃろうかってこうやって、よう見たら全部
手の入ってしまうとですもんね、肉の中に。
「湯がき」ですたい人間の。
そん時ですね、握り飯が来たですたい。ずっと配給されたですたい。
そしたらおばさんが、顔はこうしてですね…、
わーっと、こうなっとるけん、握り飯を私が…やらんじゃったっですよ。
まだ元気のよか人にずーっとやってさるいたっ(配って回ったの)ですよ。
『私もちょうだい』って、こう、手を上げやるもんやけん、ほんとやねえと。
そして二つやって、ずっと奥のほうから回って、15分か20分かかったでしょう。
その人は握り飯をこう持って…両方の手こうしてですね、
差し上げちょったですよ。
差し上げちょったですよ、本当にねぇ。
はあ、人間はやっぱり、死ぬまでやっぱり食うとが主かなって、
私は思うちょったです。
それから、もう本当、涙もつっ切ったですよ、私は。
私は癇癪〈持ちじゃけど、涙、弱かもんですけんね、ああ本当可哀想〈にねえ、
畳の上で死ぬ人はこりゃ楽ばい、本当にねーって、私は泣いとったですよ。
畳で死ねたら、本当運のよかと。
あの原子爆弾で会うた人のあの哀れさは、
ちょっと話しじゃ語られんとて。ううん。