そして、あそこからここから『水をください、水をください』って もう、とにかく言われるんですね。 それで、気の毒に、後ろを見、左を見して。また空襲が来ます。 運び先がとにかくないんです。 死ぬ覚悟だったんですね、下っていくちゅうのが。
行っては出来〈ん(だめ)、行っては出来〈んっておっしゃいましたけど、 ただお父さんとお舅〈さんに会うだけのみ、決してこの子供たちを 会わせてやらんといかんという一念から下って行ったんです。
で、その人様が皆、仰なき(仰向〈け)になって、亡くなっておられましたね。 皆、鼻をたれておられたんです。小指ぐらいの鼻をね。 全部垂れてらっしゃいましたですよ。その人間垂れてらっしゃる鼻が、 みんなそれぞれに色が違うんです。黄鼻、赤鼻、青鼻ですね。
いちばん可哀想〈か(だ)と思いましたのは、 丁度〈中学生ぐらいの坊っちゃんが、 鉄筋がちょうど背中につき貫かっていたんです。 丁度〈蛙〈が本当に両手を上げて、 うしろ足を上げて、背中に棒を突っ込まれていたようにね、 格好で亡くなられておられました。 それで、ずっともう1年半の子をかろうて、4つの子を手を引いて… |