みんなもう座り込んで
『おじさん、水くれ、水くれ』って言うけれども、
医者に『水やったらどうですか?』って言ったら
『水やったらだめ、死ぬから水やるな』こう言うけぇ、
まあよし、『あとから水やるから、頑張っときなさい』と言うて、
まあ、激励はしておるけれども、手を合わして
『もうおじさん、死んでもいいから、水くれ』とこう言うもんじゃから、
それで医者に『どうしましょうか?』って言うて、
『もう、そんならやんなさい』と。

なにも入れもんがないもんですから、手にすくうて来て飲ますと、
ゴロゴロっていうては、カタッと死ぬるですね。
一人ひとりが飲ましたら死んでしまう。
そいけん『飲んだら死ぬるから、
今このように死ぬるから飲みなさんな』言うても、
もう焼けるようにあるって言うの、のどがね。
『死んでもいいから、水ください。もうこらえきらん』と。

こう言うもんじゃから私も、
いちいち医者に聞くちゅうのもあれやもんやからもう、
可哀想かわいそうなと思うてですね、手の腹へすくうて来ちゃ、こう飲ましてやる。
すると、ゴロゴロっていうて、ひっくり返ったらもうそれまでになる。
それがもう、何十人やらからんです。

そいで、今の横穴の防空壕ぼうくうごうに50人しか入れない奴が、
50人や100人じゃないですよ、
みんな積み重なって入っとるわけですんでね。
そして、もう『殺してくれ』とおらむ者もあれば、悲壮な声を上げてですね。
医者に『何とか注射でもしてやってくれ』言うけれども、
応急手当の処置がないちゅうですもんね。
もう、あくる朝、起きてみりゃほとんどが死んでしもうとるんですね。



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