女の人がよろよろ倒れながら来ました。どぶ川にですね。 どぶ川に来て、その方が、ちょうど、口のここから耳のここまで、 こう、石榴のように割れてるんですよね。 そして、もう、なんかグドグド、グドグド血が出ていますからですねぇ。 だけど私達も、何にも持たないしですね、 それを介抱〈するっていうこともできないし。
そしたら『赤ちゃんを忘れた』っておっしゃる訳〈ですね、その方が。 『今から、見つけに行く』っておっしゃった訳〈です。 それで、『もう、燃えてるから、行ってもダメ』って言うてでも、 やっぱり、行くて言うてきかれない訳〈ですよね。 それでもどぶ川に浸かってるし、 足はぬかってるしですね、身体はそんな風だし。
もうずいぶんお止めしましたけれども、よろよろよろよろしながらですね、 行かれましたけどね。 結局、もうその時もう、本当もう、誰が可愛〈いっていっても、もう、 自分っていうことだけだなぁって思ってですね。
人間の孤独っていうのか、もうイヤという程ですね、そこでもう。 あのう、考えさせられました。 結局、自分っていうことが一番で、 二番目に子供っていう風になるんだなあていうこと… |