その防空壕に入ろうとした時にね、ひょっと見ると、 ほとんどの人達が火傷〈してるのね。 背中がべらっと剥〈げた外国人、肩の所を火傷〈した外国人、 腕、火傷〈した外国人、水泡がバーッと出てるのねぇ。 どうしてこんな火傷〈したとやろか、なんてね、思ったりして。
内に、どんどん中に『ドーゾ、ドーゾ』。日本語知ってるんですよ、 『ドーゾ、ドーゾ』って言われましてね。防空壕〈に入っていきますとね、 ずーっと両脇〈に捕虜〈達は座り、怪我〈した捕虜〈達は表にいたんですねぇ、 中にいた捕虜〈達も何人か火傷〈していたみたいですね。
防空壕〈の入口の所に、真っ黒焦〈げになった人が蹲〈ってて、 『うんうん、水が欲しか、水が欲しか』って言ってる。 『あれ、魚屋のおばちゃんじゃなかと』って言ったら、『ふぅん』って。 ああ『僕は、ワタナベのツカサよ』、『ツカちゃんかぁ、水の欲しかとさね』。
『水はなかばい、あっ、そう』。 友だちが持ってくれてた冬瓜〈をね、割って、小さく割ってから、 『おばちゃん、これをしゃぶってごらん』。口に持っていってやった。 そしたら、ちゅうちゅうちゅうって吸ってたんですね。 『はぁ、おいしかった』、で、それで終わりだったですね。 『おばちゃん、おばちゃん』って言ったけど、 もうあとは何にも言ってくれませんでした。 |