全然、家は一軒もないんですから、長崎駅から向こうには。
それでその、点々、点々として、篝火かがりびみたいなことで、
ずーっと燃えてるんですね。その中をこう、
うようにして目的地に向かって進んだわけです。
今度は、向こうの大橋おおはしの方面からですね、
怪我けがをしてこちらの長崎駅の方へ向かって避難ひなんする人。

下の川しものかわ」の橋の下からですね、若い人の声で、今も耳に残っとるんですが、
『助けてくれ、助けてくれ』という声がするわけですね。
しかしこれも、いかんともせぬ、もう施しようがない。

今度、今の市民運動場ですか、あそこんところへ行ってみたところが、
山里やまざと方面、城山しろやま方面から避難ひなん者で、が、あそこに集まりましてね、
子が親を呼び、親が子を呼ぶ、とにかく阿鼻叫喚あびきょうかん
たまたま、親が子を発見すると、無事を喜んで、そして抱き合って、
そこで泣きさけぶんですね、そうすると今度は、そうするうちに、
死体を見いだしたお母さんなんかっていうのは、
その死体に取りすがって泣くというような状態。

そうすると今度は、重傷をうた人が、歩けないのでもうとにかく
芋虫いもむしみたいにうてですね、そして生き延びんとする姿ですね。
実にこれは、なんと言いますかな、その、話と言っても話せない、
本当に、もうこの上もない、行ったことはないんだけども、
地獄というものがあれば、
こんなもんじゃなかろうかと思うですね。
とにかくその惨状さんじょうというものがですね、

被爆者の絵・ころがっている黒い遺体、負傷者、燃える炎(長崎原爆資料館 所蔵) 被爆者の絵・子供を抱いてうずくまる遺体(長崎原爆資料館 所蔵) 

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