私達も本当に、乗せるときには見ていて、もどかしいような
気もするわけですよね。
だけど、私たちは機関車から降りられないわけですよ。
だから、機関車の中で左を見、右を見して、うろうろするだけで、ですね。

しかしながら、「犬走り」と列車のデッキといいますか、あれまでは、やっぱ、
こんくらいまでありますですよね、胸位までありますんですから、
なかなか、つかまっても乗り切らないわけです。
特に負傷者が、そういう風に多いもんですから、
き果てた人なんかが乗るには、
自分の身体を引き上げきらないわけです、自分で。
だから、今度は上から他の人が引っ張ってやろうとするけれども、手が、
皮がべらっとげてしまって、ぜんぜん握っても力が入らないわけですね。

えでそこまで来た人は、そこで倒れてしまって
動けないようになってしまう人もかなりあるわけです。
そうしたところが、そういう人を今度は踏み台にしてですね、
結局我先われさきにやっぱり乗ろうてする。
のは、やっぱりパニックというのはああいう風に
なるんではなかろうかと思いますよね。

その声も、なんて言いますか、泣きさけぶどころじゃなくて
『ぎゃーぎゃ〜』って言ってね。
本当もう、本当に、あれは死んでからの地獄じゃなくて、
生き地獄ですよね。

救援列車と群がる負傷者(寺井邦人 画/長崎原爆資料館 所蔵) 救援列車が停止した照円寺下前の踏切(現在) 伊藤明彦 撮影 

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