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証言180 | 8月9日 直後 | 血のような月の色 | 当時58歳 |
こりゃこうしておれんから、まずは外に出なくちゃならんと、
いうので、診察室から廊下の方に出てみたです。
ところが、廊下には、上から建築材料が沢山〈降ってきて、
とても歩けないほど。隣の部屋を通って出ようと、いうので、
机の上を飛び越えて窓から飛び出して。
外へ出てみたら、いわゆるキノコ雲というか黒い柱が浦上〈の、
丁度〈今の爆心地の辺にあたって、ズーッと立っておったです。
丁度〈8月の真昼の太陽が、その雲の中から上に見えるんですけど、
真っ赤な太陽のような気がした。
その時私は、どういう何であったか、自分でもああいうこと考えるものかなと
思うもんだけれども、丁度〈「サロメ」という劇があったですな、
オスカー・ワイルドの書いた劇の中に、
「今夜の月の色は、血のような色に見える」という、
衛士〈がそういう台詞〈を語るところがある、あの「サロメ」の劇の中の、
その血のような月の色というそれを連想して、…