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証言169 | 8月9日 30〜40分後 | どうか立ち止まって、力を貸して | 当時16歳 |
今考えてみるとですね、
爆心地の方からゾロゾロ人が逃げて来るんですよ。
逃げて来ると言ったって、駈けてくるんじゃないですよ。
とぼとぼとぼとぼ歩いて来るんです。その歩いて来る様子はね、
私は幽霊見たことないけど、幽霊というのは、よく、前の、
両方の手をだらっとぶら下げてね、
あの「うらめしや」という感じで描かれているでしょ。
あの幽霊みたいな格好してるんです、みんな。
自分の腕の皮膚をダラーっと、指先にぶら下げてね。
そして、前の人に並んで、とぼとぼとぼとぼ歩いて来るんです。
私がね『私の友だちがここの屋根の下敷きになって、
屋根が重くて一人の力では、動かしきりませんから、
どうか立ち止まって、力を貸してください』と、
私は頭をぺこぺこ下げて頼んでみるんですけど、
誰も止まってくれないんですよ。
なんかあの、放心状態というのかな。
私がどんなに頼んでも止まってくれないんです。