中年の男性でしたけどね。 転んでて、胸の所に丁度心臓の近くですけどね。 大きなガラス片が刺さってて、 それをその、自分でね、つまんで、…こう震〈えましたよね。 『抜いてくれ、抜いてくれ、 助けてくれ、助けてください』というわけでね。 言うんですけど誰も振り向きもしないでしょ。
で、そのガラスを引き抜こうとしたんですけど、 血糊〈が付いてて。相手がガラスですから。 滑〈るんです。手ではね。何回やってもダメですね。
それで、腰にぶら下げとった手ぬぐいを抜いてね、 手ぬぐいをあてがってやったけど、 やっぱり血糊〈が付いている間はダメでね、滑〈って。 で、血糊〈の付いていない方を、こう、変えていって、 そいで滑〈らないところでグイグイと、こうね、揺すって。 そらもうもの凄〈く痛がりましたよね。 もの凄〈い悲鳴上げたです。それでも『抜いてくれ』って言うんです。 私も覚悟を決めましたよね、抜いたです。 ががががと揺すって、ズボっと抜いたところが、ガボっと血が出て。 たぶんね、今考えてみると、 心臓を切ったんじゃないかと思うんですよねぇ。 血がガボっと出ましたからね。同時に気を失つちゃったんです。 悪いことした…と思ってねぇ。 |