その防空壕の端っこにはうちの防空壕〈があったんです。 そこに私、入り込んだんです。兄が居ないかナーっと思って。 (そし)たら兄が居ないんです。出たんです。 そしたらキョウコちゃんが、『みっちゃん、みっちゃん』って呼ぶんですよ。 そしてね、そして私がね、あんただあれと聞いたら 『キョウコよ』って言うんですよ。
近づいて来て、『みっちゃん、水、水』って言うんですよね。 そのときはその、水をやれる状態じゃなかったんです。 姿を見ましたら、真っ黒! 髪の毛もなんにもない! ただ、パンツのゴムだけ…。 皮膚もね、下がってるんじゃなくて真っ黒、くっついて…… 焼けると…水膨〈れが…、そんなんじゃないんです。 もう、真っ黒! だからよっぽど酷〈かったんでしょうねー。 『水を、水を』ってね。本当あの声はいまだに、この、…残ってるんです。
だからね、家の裏にこの位の桜の木を持ってきて植えてたんです。 それが、こんな大きくなったんですね。 夏になると蝉〈の音がね…、もう『水、水、水』って聞こえるんですよ。 『水、水、水、水をちょうだい』。 それとあの呻〈き声ね、苦〈しい呻〈き声に蝉〈の音が聞こえるんです。 それでもう全部切ってもらったんです。 |