前を見ましたところ、くすのきが、もうパチパチパチパチとですね、
星のように光って木の中から、火が「パーッ」と吹き出たみたいな感じで、
七色の、色で燃えているのをはっきりですね、この目で見たんですよ。
ああ、これでしまいた、これで終わったんだなあ、
いつ、自分はいつ死ぬんだろうか、っていう気持ちだけっだったですね。

あわてて『お母さーん』って言ったんです。お母さんが、
『タダヒロ、タダヒロ』って弟の名前を何回か呼ぶうちにもう、
火傷やけどでですね、水ぶくれをかかえて弟を…。目の前に居りましたもんですから、
『ああここに居た』ちゅうて、左の手でかかえてですね、
防空壕ぼうくうごうに走って行ったんですけど、その時弟の頭を見ましたら、
真っ二つに割れていた。

頭から血がどんどんどんどん出てますもんですから、
こらいけないと思うて、またあわてて防空壕ぼうくうごう
あたしも一緒に走って行ったと思います。
その時は家の中も外も、火に包まれましてね…。
布団ふとんを干してた、そのお布団ふとんに光線があたりまして、燃えてたと思います。
母が『あいた、あいた、あいた、あいた』って言いながらですね、
『お母さん、どうしたの』って、ここを見たら水ぶくれでぶら下がっているのが
ビーッっと破れちゃったんですよね。
破れたかと思ったら、そこからヒリつくんでしょうね、
『痛いよ、痛いよ、痛いよ、痛いよ』って、お母さんが始終しじゅう言い出しましてね…

山王神社の被爆楠(米国戦略調査団 撮影/現地プレートより) 現在の被爆楠 伊藤明彦 撮影 

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