私は一番最後の船で帰ったんですね。 帰るときには潮が引いてね、向こうから来るときには 潮が満ちるんだそうですよ。 船の船方〈(船頭〈)さんもね、非常にまあ、苦労したっちゅう。 中央は(あまり)ね、死体が無いようでした。 しかしそれでもね、流れてくる死体がこう櫓〈に当たったですね。
その、天神町〈からずっと大芝〈まで来る間、 川岸で、『おおい、おおい』ちゅうですな。 『助けてくれぇ、もうその船に乗せて連れて帰ってくれぇ…』って 悲痛な叫〈び声を…そのね、死ぬる一歩手前でしょうかね…。
しかしそれはもう(我々)ん時は満載〈してですね、 どうやらその船が傾くとですね、 もう船自身が転覆〈しかねないので、その載せることは出来〈んわけですよ。 で、岸壁に近寄れんの…櫓〈をこう…死体が当たってですね。 だからまあそれもしょうがない、見殺しにするという形でですね、 まあその、なんと言うか鬼も哭〈くというかですね、 寂しさと言うか悲惨〈さというか、泣くに泣けない、まあ… |