もうそれこそ、何千、何百、何万でしょ。見渡す限り死体の中を
ずーっと歩き回って、探し回るときになったら、
恐怖心なんて全然ないですね。死体を見て怖いとか思いませんよ。

探して回って、いろいろのそれこそ無惨むざんな姿を見て回りましたけどね。
中には明らかに、母親が赤ちゃんを、腹の下に抱きかかえるような形
そのままの形で焼けているんですよね。

その当時、怖いとか、恐ろしいとか、死体見たから夜寝られないとか、
そんなあれはなくてねぇ、家の中に一人おって、夜になったらもう、
市内が毎晩、赤々としているんですよね。
あれは『死体を焼く火の明かり』だって。
そんなのを見とっても、なんか、よくまあ私だけ助かったもんだっていう、
そういう、自分が生き残ったことに不思議を感じるといいますかねぇ。
不思議さと、何とも言えない物悲しさというかねぇ。
人の命の「はかない」とか、そういう感情が、せき上げて、よく泣きましたねえ。

被爆者の絵・焼け跡で乳飲み子をしっかりと抱きかかえた母親の死体。(八島猛 作/広島平和記念資料館 提供) 

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