私はその、全身の火傷やけどでしょ。
ですからあの、自分の身体だか、自分の手足の感覚がなくって、
急ごしらえのその、診療所っていうか救護所へ、
わら草履ぞうりいて、竹の棒にすがって、
その、ありの歩みのような格好で、まぁあの、
そこへ診療を受けに行くわけなんですけれども、その行く道の両側に、
戸板だのあのむしろに寝かされている、あの、診療を待つ人の群れですね。

それがずうっと、あの炎天下えんてんかに並んでるわけです。
生きてるか死んでるか判らないような、あの、グレーの物体ですね。

あの丸坊主で目も開いてもちろんいないし、
グレーの小さい子供のような、形の人たちが、板の上にじかに寝ていたり、
むしろの上にあの、横になっていた、目ももちろんふさがっているし、
順番を待つ人が両側にずらっと並んでいるん。

それを見たときあたしは、
『あたしのこんなのは、怪我けがのうちにはもう入らない。
到底とうていあたくしはそんな診療なんか受けることは出来ない』と思って、
もう、あの、折角もうありの歩みで、とぼとぼとぼとぼ
つえにすがって歩いてきたんですけれども、
その道を引き返してきて、そしてあの…



HOME