で、その橋のそばにちょっと広場がある。
そこんとこへ5〜60人か、6〜70人ぐらい、
ずらーっとほとんど女の人だ。
みんなもうそりゃあ、皮はげたようになってるわ、もう、
形相ぎょうそうもなにもからないよね。
黒っこげてるようなのもあれば、それがずらっと並べてある。

ね、それがですね、その、炎天下えんてんかにさらされてるでしょ。
そりゃ、人間…あんた…が発酵はっこうするから、ぶうっとふくれたようになって、
それで、皮膚の皮の弱いとこから、内部のガスが、ぶつぶつぶつぶつぶつ、
ぶつぶつぶつぶつぶつ…いうような、
ぷつぷつぷつぷつぷついうような音を立てて、出してる。
誰もいない、僕一人ですよ、そこへ立って見てるのは。うん。

それで家内かないがいやしないかなとこう見てるの。
で『これじゃあないかな』と思ったって確認できないわけなんだ。
まるで変わってるからからないんだ、うん。
で衣類があれだったら『ああ、これだ』と思うんだけれども、
衣類いうものはほとんど焼けとるんだから。
これがねえ、実に人間の奇妙きみょうな心理ですねえ。
探すべく回っておりながら、実際はそういうその他の
死骸しがいのような状態のものを見るに忍びないと…

広島の焼け跡(広島平和記念資料館 提供) 被爆者の絵・積み上げられた死体、ほとんどが目を開けたまま死んでいる(石橋新子 作/広島平和記念資料館 提供) 

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