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証言106 | 8月9日以降 | 『ああ…、呉は良かったな』 | 当時39歳 |
まず第一に驚いたことは、もうその市内の悲惨な事ですね。
地獄の様相〈は全くこれだなと思いましたね。
赤く焼け爛〈れて、そしてもうここらずーっとその真っ赤になってるんです。
出たところは。ええ、顔と言わず、手と言わず、足も、
赤剥〈けになって血が滲んでおりましてね。
それがずーっともう、その動けない人達を収容〈してですね、
そしてずうっと並べておるんです。
で、その下に倒れておる人がもう、動かれず、そして血まみれになって、
『水くれ、水くれ』と言うて叫〈ぶんですね。
それから一つはこの、広島市内へ一歩足を踏み入れたら、
何とも言えない、異様〈な匂いですね。腐〈っていく臭さですかね。
毒ガスの中におるのと一緒です。
そしてもう、いたるところで死体を焼いておるんです。
呉のあの大空襲〈の悲惨〈な状態を知っておりますが、
広島のあれを見たときには、
『ああ…、呉は良かったな』と思いました。
原爆でのかって(なくって)良かった。
それ程悲惨〈な状態でした。これはもう筆にも口にも表せません。
現地を見たもんでないとわからん。地獄の有様〈とはこのことかという…