そしたらその子供が、死んどる母親に、
乳房ちぶさ一生懸命いっしょうけんめいにしゃぶりついとるんですよね。
そいで、『まあかわいそうなね、どうしてあげることも
できんのじゃが、お母ちゃんが死んどるのに、知らずに赤ん坊は、
お母ちゃんの乳房ちぶさにさわっとるが』、いうのもありますしね。

そうか思うと、気いが変になってね、
子供を抱いとったんじゃろう思うんですよね。
あの、巻き布団ふとんに包んで子供を抱いとったんでしょうが、
その子はおらんのですよ。
それなのにその巻き布団ふとんだけ抱いて、
『よしよしよしよし…』って言うてね、歩きよるんですよ。
見ちゃおられません。

そうか思うと、そこんとこに水がちょろちょろちょろちょろ出よります。
そこへもう、みんな人が行っちゃあね、その水を飲みい行くんです。
水を飲みい行っちゃあ、ぱたっと倒れ、そしてまた水飲み行っちゃあ、
ぱたっと倒れ、その周りいっぱい倒れとるんですよね。
そこの周りまるであの、私が言うんですよ、
『まあ魚があみあみに)かかったようなのを、
あみい寄せるみたようなのを、あすこへみんなこうして倒れて、
水一口飲んじゃ倒れて死ぬんだ…』。
いっぱい死んどりました。

で、そういうようなのをまあ、死んだのを端から兵隊さんが
まき沢山たくさん積んでね、まるで、まあ、ごみを焼くようにね…

被爆者の絵・死体を集め大八車に山積みにする警防団員(石川文恵 作/広島平和記念資料館 提供) 

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