うちのとこ行って見ますとね。もう家が何もないでしょ。
えー、木だけ残ってると、
ほいでそこでしばらくぼんやりして立っとりますと、
えー、女の人が一人出てきましてね、
『お気の毒でした』とこう言うんですね。
『どういう風に気の毒だ』と、
『いや、小さい坊ちゃんが駄目だめでした』とこう言う。
『そしたら、他のものはどうした』と『その上の坊ちゃんも駄目だめでした』、
『そしたら娘は』つったら『お嬢さんも駄目だめでした』、
『ほしたら家内かないは』といったら『奥さんも駄目だめでした』。
結局ね、気の毒がって一辺に四人、駄目だめでしたって言えないんですね。

ほいからそいじゃまた詳しく話してくださいといったら、
ちょうど私のうちが2階建てだったんだよね。
2階であったために風当たりがひどいもんだから、
それがもうすっかりひっくり返っちゃった。
そしてひっくり返ってちょうどうちの家族がその下敷きになったんですね。
そいで下敷きになって、えー、まだその時は死んでやしないもんですから、
『助けてくれ、助けてくれ』ちゅうてまあ、しきりに中で合図あいずをしよったと。
ほいからあの…なべの底をたたいたりなんかして、
『ここにおる、ここにおる』と言いおったと。
その声が聞こえたもんだからなんとかして
これを助けてあげたいと思ってするけども、
女の手にはどうにもならんと、そいであの近所の男の人を探し回ってですね、
『助けてあげてくれ』ちゅって頼んで回るけども、
一人も来てくれんちゅうんですよね。

ほんで来てくれないもんだからね、
みすみすその、えー、下敷きになったままほったらかしておったら、
火がずうっと回ってきましてね、火事になってしまって、
みんな下敷きになったまま焼け死んでしまったと…



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