防空壕ぼうくうごうの狭い所へ押し合いへしあい入ってるんですから。
その中には火傷やけどした人はおるし、怪我けがした人はおるしね。
とにかくぎっしりいっぱいですからね。足の踏み場も無い。
それにもってきて真っ暗でしょ。
中にローソク持ってた人が一つポーンとけてくれとってんですから、
もう暗いんですよ、何しろ。

その時にその子は戸口の所におったですがね。
『痛いよー、痛いよー、お兄ちゃん、痛いよー痛いよー』って言うんですよね。
『お兄ちゃんここにおるからね。静かにしなさいよ。
僕だけじゃないんじゃから』言うて。
そのお兄ちゃんいうのがようできた子でね。
一生懸命いっしょうけんめい言いよったですがね。

そうするとね『いやーおしっこ行くよ。うんち行くよー』言うんですよ。
痛いもんじゃけ、やるせがないもんですから、
そう言うて兄ちゃんを何とか自分の所へ引きつけとこう
思うて言うらしいんです。
私はずーっと寝とって聞いとりましたけどね。
で、始めのうちはお兄ちゃんもね、『よっしゃ、よっしゃ』言うてからね
抱こう思や『いててててぇ』って大騒動するんですよね。
だけどうんちやおしっこじゃいうんじゃ防空壕ぼうくうごうの中じゃできんでしょ。
痛がるの抱いちゃ、外へ連れて出てね、
また連れて入ったりしよったですがね。
『お母ちゃーん、お父ちゃーん』言いよったですがね。
『お母ちゃんもお父ちゃんもすぐ来てくれてじゃけん、
ええ子して寝てなさい。お兄ちゃん、もうそんなに悪い子する子じゃったら
放っとくよ』って言いよりましたよ。

そしたらね、何とかいう名前でしたね。
『何とか、何とか!』っていうお兄ちゃんの声が、異様いような声でね。
はっと私らも目が覚めたんですよ。
あらーって思うたらね、『何とか死んどる。お母ちゃーん助けてぇー』言うてね。
その男の子が、中学3年ぐらいの男の子だったですがね。
『どうしよう、死んどるー』言うてから、もうおらびだしましてね。
こらえてー、こらえてー。お兄ちゃんが悪かったー』言うて
その子を抱きしめてね。
『死ぬるんだったらお兄ちゃん怒るんじゃなかったのに、
こらえてくれ、こらえてくれ』言うてね。みんなもらい泣きしたですよ。

被爆者の絵・比治山の横穴に多くの重傷者が収容され(藤瀬朝子 作/広島平和記念資料館 提供) 

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