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証言091 | 8月6日 夜 | 悪い子する子じゃったら放っとくよ | 当時19歳 |
防空壕の狭い所へ押し合いへしあい入ってるんですから。
その中には火傷〈した人はおるし、怪我〈した人はおるしね。
とにかくぎっしりいっぱいですからね。足の踏み場も無い。
それにもってきて真っ暗でしょ。
中にローソク持ってた人が一つポーンと点〈けてくれとってんですから、
もう暗いんですよ、何しろ。
その時にその子は戸口の所におったですがね。
『痛いよー、痛いよー、お兄ちゃん、痛いよー痛いよー』って言うんですよね。
『お兄ちゃんここにおるからね。静かにしなさいよ。
僕だけじゃないんじゃから』言うて。
そのお兄ちゃんいうのがようできた子でね。
一生懸命〈言いよったですがね。
そうするとね『いやーおしっこ行くよ。うんち行くよー』言うんですよ。
痛いもんじゃけ、やるせがないもんですから、
そう言うて兄ちゃんを何とか自分の所へ引きつけとこう
思うて言うらしいんです。
私はずーっと寝とって聞いとりましたけどね。
で、始めのうちはお兄ちゃんもね、『よっしゃ、よっしゃ』言うてからね
抱こう思や『いててててぇ』って大騒動するんですよね。
だけどうんちやおしっこじゃいうんじゃ防空壕〈の中じゃできんでしょ。
痛がるの抱いちゃ、外へ連れて出てね、
また連れて入ったりしよったですがね。
『お母ちゃーん、お父ちゃーん』言いよったですがね。
『お母ちゃんもお父ちゃんもすぐ来てくれてじゃけん、
ええ子して寝てなさい。お兄ちゃん、もうそんなに悪い子する子じゃったら
放っとくよ』って言いよりましたよ。
そしたらね、何とかいう名前でしたね。
『何とか、何とか!』っていうお兄ちゃんの声が、異様〈な声でね。
はっと私らも目が覚めたんですよ。
あらーって思うたらね、『何とか死んどる。お母ちゃーん助けてぇー』言うてね。
その男の子が、中学3年ぐらいの男の子だったですがね。
『どうしよう、死んどるー』言うてから、もうおらびだしましてね。
『堪〈えてー、堪〈えてー。お兄ちゃんが悪かったー』言うて
その子を抱きしめてね。
『死ぬるんだったらお兄ちゃん怒るんじゃなかったのに、
堪〈えてくれ、堪〈えてくれ』言うてね。みんなもらい泣きしたですよ。