妹はさかんに『水が欲しい、水が欲しい』言ってましたけどね、
『水をあんた飲んだらすぐ死ぬるんじゃけえ、我慢がまんしんさい。
でも明日の朝になるとこの奥のほうへ
お医者さんがおってじゃろうから、お医者さんとこ
すぐ連れてってあげるけんもうちょっと我慢がまんしんさい』
いうことだったんですよね。
夜になりまして広島の空を見ましたらね、すごい真っ赤なんですよね。
ものすごく明るいんです。今にも山が燃えてきそうですね、己斐こいの山が。
ずーっと町中が燃えてたんでしょうねぇ。

妹はもう丸焼けですからね。どこをどういう風にしてやるとも
からんですね。つける薬もありませんしね。
で、水もやったらいけないとばっかり思ってますからね。
ただついているよりしようがないですよ。
で、時々『どんな、痛い?』とかいう風なことしかね、言えませんね。

夜中に急に呼吸こきゅうが荒くなりまして、『呼吸こきゅうくるしい、呼吸こきゅうくるしい』
言ってですね。そう言ったら途端とたんに亡くなりましたね。
しまった! こんなんだったら、水を、
あれだけ欲しがってた水をやればよかったのに、思ってね。
みんな本当に大声あげて泣きました。母はもう気違きちがいみたいですね。

被爆者の絵・夜あちこちで遺体がだびに付され、(吉岡隆子 作/広島平和記念資料館 提供) 

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