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証言086 | 8月6日 夜 | こんなんだったら、水を | 当時16歳 |
妹はさかんに『水が欲しい、水が欲しい』言ってましたけどね、
『水をあんた飲んだらすぐ死ぬるんじゃけえ、我慢しんさい。
でも明日の朝になるとこの奥のほうへ
お医者さんがおってじゃろうから、お医者さんとこ
すぐ連れてってあげるけんもうちょっと我慢〈しんさい』
いうことだったんですよね。
夜になりまして広島の空を見ましたらね、凄〈い真っ赤なんですよね。
ものすごく明るいんです。今にも山が燃えてきそうですね、己斐〈の山が。
ずーっと町中が燃えてたんでしょうねぇ。
妹はもう丸焼けですからね。どこをどういう風にしてやるとも
分〈からんですね。つける薬もありませんしね。
で、水もやったらいけないとばっかり思ってますからね。
ただついているよりしようがないですよ。
で、時々『どんな、痛い?』とかいう風なことしかね、言えませんね。
夜中に急に呼吸〈が荒くなりまして、『呼吸〈が苦〈しい、呼吸〈が苦〈しい』
言ってですね。そう言ったら途端〈に亡くなりましたね。
しまった! こんなんだったら、水を、
あれだけ欲しがってた水をやればよかったのに、思ってね。
みんな本当に大声あげて泣きました。母はもう気違〈いみたいですね。