そしてその収容所しゅうようしょへ一歩入って、
もう私は地獄ったらね、このことじゃないかと思ったんですよ。
裸の人もいるし。『空襲くうしゅうだー、空襲くうしゅうだ、空襲くうしゅうだ、空襲くうしゅうだ』
あれは頭にくるんでしょうかね。立ち上がってはバターンと倒れる。
それが一人二人じゃないんです。
あっちからも、こっちからもね
空襲くうしゅうだ、空襲くうしゅうだ、空襲くうしゅうだ』って言う人もおれば、
『お母さーん、お母さん』言うて泣く。そんな人がいっぱいいる中で、
はぁ、地獄だ、地獄だと私思いましたよ、その時にね。

弟がこの中に入れられるのかと思ったけれども、
でも、ここへ来たらてくれるんだろうと思いましたのでね。
『お兄ちゃん、どうにかしてちょうだいよ、ね』、
『お兄ちゃん、どうにかしてちょうだいね』て言うでしょ。
『いいよ、いいよ』って言いながら。その一隅へ寝かされました。
そうするとね、あっちでもこっちでも、みんなご承知だと思いますが、
『水ちょうだい、水ちょうだい』て皆さけんでるでしょ。
兵隊さんが水をやるだけが看護なんです。
薬を塗ったり手当てしてくれるんじゃありません。
あの収容所しゅうようしょってのは、水をやるだけが看病だったんです、あの日は。

原爆の図「虹」より (部分)(丸木位里・丸木俊 作/原爆の図 丸木美術館 蔵) 原爆の図「水」より (部分)(丸木位里・丸木俊 作/原爆の図 丸木美術館 蔵) 

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