そしてその収容所へ一歩入って、
もう私は地獄ったらね、このことじゃないかと思ったんですよ。
裸の人もいるし。『空襲〈だー、空襲〈だ、空襲〈だ、空襲〈だ』
あれは頭にくるんでしょうかね。立ち上がってはバターンと倒れる。
それが一人二人じゃないんです。
あっちからも、こっちからもね
『空襲〈だ、空襲〈だ、空襲〈だ』って言う人もおれば、
『お母さーん、お母さん』言うて泣く。そんな人がいっぱいいる中で、
はぁ、地獄だ、地獄だと私思いましたよ、その時にね。
弟がこの中に入れられるのかと思ったけれども、
でも、ここへ来たら診〈てくれるんだろうと思いましたのでね。
『お兄ちゃん、どうにかしてちょうだいよ、ね』、
『お兄ちゃん、どうにかしてちょうだいね』て言うでしょ。
『いいよ、いいよ』って言いながら。その一隅へ寝かされました。
そうするとね、あっちでもこっちでも、みんなご承知だと思いますが、
『水ちょうだい、水ちょうだい』て皆叫〈んでるでしょ。
兵隊さんが水をやるだけが看護なんです。
薬を塗ったり手当てしてくれるんじゃありません。
あの収容所〈ってのは、水をやるだけが看病だったんです、あの日は。
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