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証言059 | 8月6日 昼すぎ | 私は鬼じゃないかと、聞いてあげれば | 当時29歳 |
みんな向こうの方から来るんですね、こっちへ。
私は逆に町の中へ入って行ったんです。そしたらね、
元気な私を見てね、『水ちょうだい』、『水ちょうだい』言うて
私のところへ来るでしょ。
そうかと思ったらね、また私のところへね、
『すいません、私の住所はここで、こうこうこういう所なんで
連絡してくれませんか』。みんな私のところへ寄って来るんです。
私はね、何故聞いてやらなかったのかと思うんですよ。
私は鬼じゃないかと。あの時にね、叶〈わぬまでも誰か一人でも二人でも
あるいは三人でも、あんなにたくさん寄って来たんだから、
住所を聞いてあげればよかった、水の一杯ぐらい、
あげてあげられないことはなかったんです。
私はその時にね、これが戦争なのか、これが地獄なのか…。
あとからいろいろな映画が見せられます。一ヶ月か二ヶ月経った後の。
あんなものがね、原爆じゃありません。