もう焼けただれた、オバケの様な避難ひなん者の群れで、
その公園が一杯なんですよね。
この大きな桜の幹のそばに、まだ年若い母親が、
乳飲ちのを抱いて、お乳を飲ましている。
ところがその母親は、年若い母親は、もう既に死んでいるんですがね、
この乳飲ちのみ児は、母の死も知らないで、
無心に死んだ母の乳房ちぶさをしゃぶっている。

しばらく、(夫婦)二人待っていたところがですね、
私の前に一人の男が立ちはだかったんですね。
私、キヨシ、と申しますが『おい、キヨシじゃないか?』と、
私の名前を呼んでくれたものですから、初めて父親だってわかったんです。
一目でわからないんですよね。父親、もう素っ裸で、
それこそ頭のテッペンから足まで全部焼いてしまってるんですよ。
顔はですね、もうれあがってますしね、まるで目が糸を引いた様なんです。
くちびるはブタのくちびるの様にれあがってるし、睾丸こうがんれあがってる。
ところが父親は、そんな自分の身体に気が付かないで、
私共夫婦が焼けただれた身体を見て、心配してくれたんです。
『お前はヒドイ事になってるやないか!』という事で、
とにかく、お前たちに会えてワシは安心した…

長寿園の桜の木 伊藤明彦 撮影 原爆の図「幽霊」より (部分)(丸木位里・丸木俊 作/原爆の図 丸木美術館 蔵) 

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