| もう焼け爛れた、オバケの様な避難〈者の群れで、その公園が一杯なんですよね。
 この大きな桜の幹のそばに、まだ年若い母親が、
 乳飲〈み児〈を抱いて、お乳を飲ましている。
 ところがその母親は、年若い母親は、もう既に死んでいるんですがね、
 この乳飲〈み児は、母の死も知らないで、
 無心に死んだ母の乳房〈をしゃぶっている。
 
 暫〈く、(夫婦)二人待っていたところがですね、
 私の前に一人の男が立ちはだかったんですね。
 私、キヨシ、と申しますが『おい、キヨシじゃないか?』と、
 私の名前を呼んでくれたものですから、初めて父親だってわかったんです。
 一目でわからないんですよね。父親、もう素っ裸で、
 それこそ頭のテッペンから足まで全部焼いてしまってるんですよ。
 顔はですね、もう腫〈れあがってますしね、まるで目が糸を引いた様なんです。
 唇〈はブタのくちびるの様に腫〈れあがってるし、睾丸〈は腫〈れあがってる。
 ところが父親は、そんな自分の身体に気が付かないで、
 私共夫婦が焼け爛〈れた身体を見て、心配してくれたんです。
 『お前はヒドイ事になってるやないか!』という事で、
 とにかく、お前たちに会えてワシは安心した…
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