逃げ道が絶たれますからね、どっち向いて逃げたらいいか思うて、 頭が転倒してしもうとりますから。 『お泉邸〈はどちらですかなー』っておらんだんですよの。 『お泉邸〈はもう火事になっております』云うて、 『火事になっとっても、まだ避難〈の余地ありますけん、 どちらですかー』云うても黙って、黙って皆屈んでしもうとっとですよね。
今何時かしらんと、空を仰いだんです。 太陽が真っ黒い雲の中から、この位の大きさになって、 真っ赤になって顔を見せとりますね。 『こちらが東ですよ、こちらがお泉邸〈ですよ、 早う逃げましょ、逃げ道が絶〈たれますよー』って私がおらんで、 私はドンドンお泉邸〈へ走ったんですがね。 黒煙〈がもう何十丈、ターッと、火と共に上がりよる。『これは大変ですよ』、 『道を絶〈たれますでー』、『絶〈たれますでー』って云ってね。 |